2006 |
12,12 |
«スノウ»
「寒いよなあ。」
どんよりとした空を見て、隣を歩くコイツはそう呟いた。
「雨でも降りそうな天気だ。」
黒に近い灰色の雲が、大分近くに見える。
降りだすのも、時間の問題だろう。
「もうちょっと冷えたら、みぞれくらい降りそうだよな。」
「やなこというなよ。明日早朝練習なんだから。」
これ以上冷え込まれてたまるか、と思ってそう言うと、「悲しいねェ?」と笑われた。
「なにがだよ。」
「ちょっと前までは雪が降ると喜んでたのに、いつの間にか雪を鬱陶しく思うなんて。」
「そうか?」
ガキの頃は、雪で遊んだ後のしもやけになったときのカユミとか、
翌日の凍りついた道路とか、そういうのは気にしないでいられたから、偶にしか降らない雪を見て、はしゃいでいたんだろう。
今は別に、雪ではしゃぐような歳でもないし、雪の誘惑に負けた後のことを知ってるから、嬉しいと思ったりはしない。
雪を綺麗だと思うことはあっても。
「大人になるってこういうことかな。」
「そうかもな。」
2006 |
12,06 |
«ノンストップ。»
一歩ずつ、ゆっくりだけど、確実に前に進む。
周りから遅れをとってる。 だから、俺には立ち止まってる時間なんてない。
追いつこうとは思わない。 だけど、これ以上、離されようとも思わない。
「先に行くぜー?」
自分の少し後ろを歩いていた人が、急にスピードを上げて、俺の前へと進んで行った。
また、抜かされた。 そうは思うけど、自分もスピードを上げようとは思わない。
俺には俺のペースがある。
今からペースを上げたって、途中で息切れするに決まってるんだ。
コツコツ歩けば、きっと大丈夫。
止まることなく、マイペースで行こう。
2006 |
12,01 |
今日からやっと十二月に入ったところだというのに、
世間ではもうクリスマスだ。
定番のクリスマスカラーが街では踊り、それを見る人たちも、心なしか嬉しそうに見える。
まだまだなのに、と思ったけれど、きっとすぐなんだろう。時間が経つのは、驚くほど早いから。
クリスマスといえば、大体家で家族と過ごすか、一人で過ごすかのどちらかだ。
今年は親も仕事があるとか言っていたし、弟も彼女とデートの約束をした、なんて言っていたから、
多分、俺は一人でいつものように過ごすのだろう。 クリスマスなんて、あんまり関係なく。
ケーキくらい買っておこうか、と言われたけれど、クリスマスに一人でケーキだなんて、虚しいにも程がある。
とにかく、十二月は始まったばかり。
もしかしたらクリスマスまでの何週間かの間に、予定が入るかもしれない。
そこまで考えて、あぁ、俺もなんだかんだ言いながら、クリスマスを楽しみにしてるんだな、なんて思った。
2006 |
11,30 |
«メロディ。»
放課後、毎日のように聞こえてくる歌声に、僕は耳を傾けた。
澄んだ、きれいな声。
一体、どんな子が歌っているんだろう。
声だけは、毎日聞こえるのに、僕はその子のことを、見たことがない。
その子が奏でるメロディを、僕は昔、どこかで聴いたことがある。
けれど、それがどこでだったのか、これがなんという曲だったかは、思い出せない。
懐かしい そんな気がするだけで、もしかしたら、一度も聴いたことがないのかもしれない。
この声の主は、どこにいるんだろう。
音楽室だろうか。 それとも、普通の教室だろうか。
一度でいいから、会いたい。 そう思った。
会って、訊きたいんだ。
懐かしいそのメロディの、名を。
2006 |
11,29 |
まだ十七時だというのに、外は随分と暗かった。
吐く息が、白く、頬を撫でる風は冷たかった。
隣を歩く友人の、口数がいつもより少ないのは、寒さの所為だろうか。
それとも、僕が曖昧な返事しかしない所為だろうか。
・・・恐らく両方だろう。
寒さに震える声は、少しだけ悲しく、空へと響いた気がした。
「ほんとにさ、どうするの?」
「うん、どうしようか。」
先ほどから、同じ会話の繰り返し。
僕の中にはすでに、答えは出ている。けれども、それを口にすることはなかった。
口にしてしまえば、今までの関係はきっと、ウソだったかのように崩れてしまう。
確信はないけど、そんな気がした。
「どうして、濁すかな。」
「・・・ごめん。」
「謝って欲しいんじゃないけどさ。」
その声は、いつまでも優しかった。
――― いっそのこと、突き放してくれたらいいのに。
僕はズルイんだ。 いつまでも一緒にいたいと思いながら、自分だけ違う道へ進もうとしてる。
ずっと今のままでいたいのに、突き放してくれたらいいと思ってる。
矛盾しまくりだ。 でも、どちらもウソじゃない。
どうすればいいんだ。 どちらを、選べばいい?
どっちも手放したくないと思う僕は、欲張りなんだろうか。
「俺は、俺の意見は、」
「分かってるよ。」
選ぶことが出来るのは、一つだけ。
どちらか一つは、手放さなければならない。
「僕は、」
どちらも大切過ぎた。
だから、こんなにも悩んだんだ。
「 」
僕の答えに、キミは、笑った? それとも、怒った?