2007 |
01,30 |
«距離。»
たった一人で生きていけるとは思わないけど、
群れたら生きていけるとも思わない。
関わりとは難しいもので、
線を引きすぎてもいけないし、踏み込みすぎてもいけない。
思ったことを言わな過ぎるのも、言い過ぎるのもいけない。
積極的過ぎてもいけない、消極的過ぎてもいけない。
手を伸ばせば、触れられる。
そんな距離が、丁度いいのかもしれない。
その距離を保つのもまた、難しい。
向こうが近づけば離れる。 向こうが離れれば近づく。
そんなことの、繰り返し。
手を伸ばせば届くけれど、
伸ばさなければ届かない。
気にすれば見えるけれど、
気にしなければ見えない。
手を伸ばせば、触れられる距離。
2007 |
01,28 |
«理屈じゃない。»
キミが笑うたびに、 胸が熱くなる。
だけど、キミの視線の先には、いつもあの人がいて、
その視線は、決して僕には向かない。
たまに気がついたように僕を見て、手を振ってくれるけど、
それがどんなに残酷な行為なのか、きっとキミは知らないんだ。
僕が欲しいのは、そんなものじゃないのに。
中途半端な優しさはいらない。 中途半端な気持ちもいらない。
優しいキミが好きだけど、 優しさが心を傷つける。
いっそ、嫌いになれたら楽なのに。
思うだけで、嫌いにはなれそうにない。
2007 |
01,18 |
«電車»
電車の窓から見る景色は、毎日、違うように思う。
通る場所はいつも同じだし、急に建物が建ったり、壊されたりなんてことはないけれど、
同じ景色を見たことは、一度もない。
子供の頃、電車に乗ったとき、景色のほうが動いているんじゃないかと思ったことがある。
物凄いスピードで過ぎて行く景色の一部でも見逃さないように、
瞬きするのさえ惜しんで、目を見開いた。
その、一瞬目を閉じた間に、凄い景色を見逃しているかもしれない。
そう思うと、目が乾いて痛くなるまで、開けていたものだ。
今、昔に比べると、電車に乗る機会はぐんと増えたけれど、
外を見る時間は、がくっと減ったような気がする。
乗る時間帯が、混み合う頃だというのも理由の一つだけれど、
外を見ていた時間を、他のことに使うようになったからかもしれない。
昔の頃の景色は、目を瞑っても思い出せるのに、
今の景色は、ちっとも思い出せない。
子供の頃とは随分変わってしまった景色に、少し寂しさを覚えながら、
今の景色も焼き付けようと、俺は外の景色に目を向けた。
2007 |
01,10 |
«晴れ空»
青い空から降る光が、眩しくて目を細めた。
夏の青空も好きだけど、冬の透き通ったような青空も好きだ。
特に理由はない。ただ、好きだと思った。
「雨、止んだね。」
ちょっと前までの雨が、ウソみたいな青空。
でも、雨のあとの空って、結構綺麗だと思う。
「にわか雨だったんだろ。」
たたんだ傘には、滴がまだ残っていて、
歩くたびに、コンクリートに痕ををつける。
夏だったら、直ぐに消えてしまうのだろうそれは、振り返ると、まだ残っている。
それを見て、ちょっとだけ嬉しくなった。
私と、彼が、一緒に歩いてきた証みたいで。
(もう少ししたら、消えちゃうけど。)
傘をたたんだ分、彼との距離が、ちょっとだけ近くなる。
ほんの少しのことだけど、凄く嬉しかった。
2007 |
01,09 |
«雨雲。»
どんよりした空。 冬だというのに、どこか生暖かい風が吹いていた。
黒い雨雲は、手を伸ばせば届きそうなくらい、近くにあるように思える。
降り出しそうで、降らない雨。
まるで、さっきから泣くのを我慢しながら歩いてる、こいつみたいだ。
そんなことを頭の片隅で思いながら、「傘持ってくりゃあ良かった」と少し後悔した。
「はっきりしない空、だね。」
「そうだな。」
少しだけ震えた声。 それでも、明るい声にしようとしているのが、ひしひしと伝わってくる。
もう少し気の利いた返事が出来たらいいのに。
けれど、どんな言葉を掛けたらいいのか、わからなかった。
降るか降らないか迷ってるなら、いっそのこと降ってしまえ。
そしたら、雨と、その音に紛れて、こいつは泣けるかもしれない。
(早く降っちまえ。)
そう思いながら、俺は重い空を睨んだ。