2007 |
01,08 |
«精一杯。»
好きだという気持ちだけなら、誰にも負けない自信がある。
今、あの子の隣にいるあいつと比べられたって、絶対に勝つという自信があるほど、
あの子のことが好きだった。
けど、[好き]だけじゃダメなことくらい、わかってるんだ。
僕はあいつみたいに、あの子をあんなに笑わせてあげることは、
きっと出来ない。
悔しいけど、あの子はあいつのことが好きだから。
「好きな子が幸せならそれでいい。」
そんな考え、まだまだ子供の僕には理解出来ないけど、
あの子からあの笑顔を奪うことは、僕には出来ないから。
今は、あの笑顔が見られたら、それでいい。
すぐに忘れるなんて、絶対に無理だから、ちょっとずつ、時間を掛けて、
「あの子が幸せなら」 そう思えるように。
2007 |
01,06 |
«呼ぶか否か。»
正月に買ってもらったゲームのソフトを持って、あいつの部屋に行くと、
あいつは机に参考書とノートを広げていた。
「なに?勉強?」
「まぁ、一応ね。」
勉強なんてしなくても頭いいくせに、と思いながら、「ふ~ん」と返事をした。
俺が来ても、勉強を止める気はないらしい。こいつはそういうヤツだ。
俺が持ってきたのはテレビゲームだし、一人でやったって詰まらないから、
断りを入れずに、ふかふかのベッドに座った。
やることは特にない。
ベッドの横にくっつくように置いてある机に向かう、こいつの横顔を、ただ眺めるだけだ。
時折瞬きしながら、上から下へ目が動くのが分かる。
カリカリ、とシャーペンの細い音が、ちょっとずつ遅くなっていって、
参考書のページが捲られる。
「なぁ、」って俺が呼んだら、こいつは手を止めるんだろうか。
それとも、返事をするだけで、手も休めず、目も俺に向けないんだろうか。
声を掛けてみたい気もする。
けれど、後者だったら、ちょっとショックかもしれない。
声を掛ける、声を掛けない、声を掛ける、声を掛けない。
そんなことを何度か考えている間に、あいつのほうから声を掛けてくるのは、
もう少しだけ、先のこと。
2006 |
12,31 |
«年おさめ。»
「旧年は、お世話に、なりました、っと!」
最後の一枚を書き終えて、俺は筆を置いた。
筆、と言っても、コンビニなんかでも売っている筆ペンだけれど、
パソコンでプリントしたものなんかじゃなく、手書きなのには理由がある。
昨年(といってもまだ今年だけど)お世話になった人たちみんなに同じ年賀状を送っても、
なんだか有り難味に欠ける気がする。
お世話になったんだから、一枚一枚心を込めて書きたいなぁ、と思い、俺は毎年手書きで送るのだ。
一枚一枚、その人に合った内容を考えるのは楽しいし、
これを書いていると、今年ももう終わりか、なんていう風に思える。
大晦日は、炬燵に入って、そばを食べて、歌番組を見て、
テレビと一緒にカウントダウンして、0時少し過ぎくらいに鳴る携帯に対応して、
もう直ぐ日が昇るぞ、というときに布団に入る。
今年もあと数時間で終わり。
新しい年は、笑顔で迎えようと思う。
2006 |
12,29 |
«かなで。»
いつもキミが隣で唄う曲を、
何気なく口ずさむ。
歌詞までちゃんと覚えてるわけじゃないから、ルルルとか、ラララ、という程度だけど、
なんとなく、キミが近くにいるようで。
なんとなく、キミと一緒にいるようで。
2006 |
12,28 |
«大人の味。»
ゴホゴホと咳を繰り返していた俺を見かねたのか、
「あげる」と言われてあいつに渡されたのは、コーヒー味のキャンディだった。
丸みを帯びた四角い形のそれには、「微糖」の文字。
微糖ってことは、そんなに甘くはないんだろう。
甘いものは好きではないから、それは有り難い。
でも俺は、コーヒー味、というのがどうも苦手だ。
匂いや色なんかは好きなんだけれど、味はあまり好きではなかった。
味覚がまだ子供なんだろうか。
付き合いで飲んだりはするけど、それでもまだ一度も飲み干したことがない。
「さんきゅ」と言って受け取ったそれを袋から出して、
少しの間見つめた後、目を瞑って口に入れた。
コーヒー独特の苦味が、口の中に広がる。
やっぱり、俺には合わない味。
いつだったか、コーヒーを飲む大人を、「格好いい」と思ったことがある。
今でもそう思うし、自分も飲めるようになれたらいいなと思うけど、
この調子じゃ当分は無理だろう。
もっともっと大人になったら、平気になるんだろうか。
そんなこと、今はまだワカラナイ。