2006 |
12,25 |
外の風は冷たかったけど、雪は降らなかった。
ちょっとだけ期待していた、ホワイトクリスマス。
最後に雪が降るクリスマスをしたのは、いつだっただろうか。
恋人のいないクリスマスを迎えるのも、もう慣れた。
別に、恋人のいないクリスマスが悪いものじゃないことももう知ってるけど、
家族とも過ごせない一人のクリスマスというのは、やっぱりちょっと味気ない。
街に出れば、クリスマス気分を分けてもらえるのかもしれないけど、
生憎、今日一人で街に出るような根性は持ってない。
部屋にはツリーも飾っていないし、今までの中で、一番クリスマスらしくないクリスマスかもしれない。
家にいても仕方ないと思って、近所のコンビニに足を運んだ。
ケーキでも買おうかと思ったけど、基本的に甘いものが好きじゃない俺は、いかにも甘そうなケーキの類を見て、買うのを諦めた。
甘くないココアと、隣のパンコーナーで、コロッケパンでも買って帰ろう。
ついでに、ロウソクもつけて。
一人きりのクリスマスも、悪くないんじゃないか。
そんなことを思いながら、俺は家へと急いだ。
2006 |
12,20 |
«笑顔。»
僕に出来ることなんて、ほんとに少しなんだ。
泣くな、って声を掛けてやることしか出来なくて、 その言葉でキミを追い詰めて、
余計に、泣かせてしまう。
どうしたらいい? キミの笑顔が見たいのに。
キミが笑ってくれるなら、僕はなんだってするよ。
だから、お願い。
涙を拭いて? いつもの笑顔を、見せてよ。
2006 |
12,17 |
«言葉にして。»
「でさ、今日アイツさ、体育の時間に―――」
毎日のように見舞いに来てくれるクラスメイトの話を聞きながら、
見舞いの品だと渡された、真っ赤な林檎を見つめた。
白すぎるこの部屋に、よく映える 紅。
それを見ていると、わからなくなる。
俺は今、自分の色を持っているんだろうか。
この部屋と同じように、真っ白になってしまっているんじゃないだろうか。
「で、そしたら先生めちゃくちゃ焦ってさ!」
「なぁ。」
「―ん?なに?」
わざわざ遮るような話じゃない。
コイツの話が終わってから、言えばいいことだ。
でも、今だと思った。
なんでだかは分からない。理由なんて特にない。
でも、今だと思った。
「ありがと。いつも。」
「へ? な、なんだよ、らしくない。」
「だよなー。」
「そうだよ。」
吃驚したじゃん、と笑ったコイツに、心の中でもう一度、
ありがとう。 と呟いた。
2006 |
12,16 |
«こいこころ。»
私が書いた日誌に、丁寧に目を通すその横顔を、ひっそりと眺める。
左右に忙しく動くその瞳が、私を捉えることはない。
いつの間にか、手の届かない人になってしまった彼に、
今更想いを伝えることなんて出来ないから。
私はひっそりと、彼への想いを消していくしかない。
積もった雪が溶けたら、水になる。
その水は、どこへ行くのだろう。蒸発してしまう? それとも、土に滲みこんで、なくなっちゃうのだろうか。
ならば、積もってしまった恋心は、溶けてしまったら、どこへ行くのだろう。
心の奥底まで滲みこんだら、なかったことになるんだろうか。
「いつもながら、完璧だな。」
日誌をパタンと閉じた彼は、そう言って薄く笑った。
あの子に向けられている微笑とは明らかに違うそれに、少し切なくなる。
いつになったら、私の恋は、終わるんだろう。
2006 |
12,13 |
«憧れ。»
小さい頃憧れたもの、といえば、文句なしにウルトラヒーローだった。
今思えば、なんであんなものに憧れたのか、疑問がないでもないけど、小さい頃の感覚なんてそんなものだ。
ヒーローといえば、無条件で憧れてた気もする。
少し大きくなると、本を読み始めた俺は、探偵を夢見たことがある。
どんな難事件でも、ずばずばと格好良く解決していく探偵を、格好いいと思ったのだ。
普段は冴えないオトコでも、謎解きの時間になれば、人が変わったように光って見える。
それに影響を受けて、自分も冴えないオトコを目指してみたり、ちょっとしたことをすぐに事件にしたりして、
親に良く怒られたのを覚えている。
そして今。
あの頃よりも大きくなった自分は、「憧れ」る職業を持っていなかった。
なにを見ていても、苦労する面を、想像するようになったからだ。
いいな、と思っても、それになりたいと思うようなことが、なくなってしまった。
「大人って悲しー。」
そう呟いた声は、誰に聞かれることもなく、消えていった。